Hitz技報第78巻第1号
わが国におけるし尿処理施設は、公共水域の水質規制の強化、循環型社会の構築といった社会的な要請を受けて技術が多様化してきた歴史がある。本論文では、当社のし尿処理技術の変遷、特にわが国で初めて無希釈し尿処理を可能にし、現在まで104箇所の実績を誇るIZジェットエアレーションシステムによる高負荷生物脱窒素処理方式の開発経緯を中心に述べる。また、循環型社会構築を目的として補助金の交付対象となった「汚泥再生処理センター」に不可欠な資源化技術の開発概要と、今後の汚泥再生処理センターの展望について述べる。
- 文責者
- 奥野 芳男
- 共同執筆者
- 一瀬 正秋、高野 剛彦、小林 英正、鈴木 憲亮
当社は汚泥再生処理センターにおけるリン回収技術(HAP法)を開発し、これまでに6施設が稼働している。リン回収技術は初期費用が安く導入が容易な反面、近年のし尿等の希薄化や浄化槽汚泥混入比率の増大に伴ってリン回収量の減少が懸念されている。
2014年に稼働を開始した池野山環境衛生センターでは、汚泥削減技術「DNアシスト®」を導入しており、余剰汚泥発生量の削減と汚泥からのリン溶出によるリン回収量の増加について実態を調査した。
DNアシスト®による汚泥削減効果は理論発生量に対して最大34.6%で、リン回収量の増加効果はし尿等由来に対して最大45.5%増加し、組み合わせ効果が確認できた。
- 文責者
- 舩石 圭介
- 共同執筆者
- 山口 滋、奥野 芳男
当社は、し尿処理施設における汚泥助燃剤化とリン回収の両立可能なシステム開発を目的に実証試験を行った。その結果、①し尿混合割合19.2~51.9%の範囲の搬入物に対して、高分子凝集剤を2.5%対TS程度注入で脱水し、汚泥助燃剤化(脱水ケーキ含水率70%以下)が可能であること、②搬入物中のし尿混合割合が約20%の場合に脱水ろ液のPO4-P濃度が30mg/L程度であり、MAP(Magnesium Ammonium Phosphate)回収が可能であることを確認した。これらの結果から、前処理行程に脱水機を配置した汚泥助燃剤化とMAP回収の資源化設備を具備するし尿処理システムを確立した。本システムは、公的な第三者評価として一般財団法人日本環境衛生センターより性能評価報告書を受領した。
- 文責者
- 田邊 佑輔
- 共同執筆者
- 舩石 圭介、館野 覚俊、山口 滋
リン回収装置「フォスニックス®」は、下水処理場における富栄養化対策の設備として実績があり、またスケール対策の設備としても実用段階にある。本装置を汚泥再生処理センターの処理方式の一つである高効率型前脱水システムに組み込むことを検討した。パイロット試験を実施し、し尿と浄化槽汚泥の混合液を脱水する工程で得られたろ液から、肥料として利用できる品質のリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)結晶を回収できることを確認した。これにより、低含水率の脱水ケーキとリン資源を同時に得られるシステムを確立した。
- 文責者
- 松下 知広
- 共同執筆者
- 大地 佐智子、中村 剛、高野 剛彦
当社では、浄水処理施設向けに生物接触ろ過用の新規繊維ろ材(以下、新ろ材とする)を開発し、地下水を処理するろ材として2015年にこれを納入した。新ろ材の特徴は、当社従来品の生物接触ろ過用繊維ろ材よりも25%低いろ材層高で従来品と同等の処理性能が得られる点である。また、従来品は3週間を要していたアンモニア態窒素除去性能の立ち上がりが、新ろ材では2週間となり、安定運転に移行するまでの期間を短縮できた。新ろ材では原料繊維として熱融着性繊維を使用し、乾式法による生産を採用したことにより、除鉄・除マンガンろ材として十分な強度を付与することができた。本稿では、この新ろ材について開発概要を報告する。
- 文責者
- 玉木 由佳
- 共同執筆者
- 井手 幹夫、本庄 信、竹中 美佳子
当社では膜ろ過技術をベースとしたコンパクトで、装置単独で膜ろ過と消毒工程を完結できる一体型のAQSEV®膜ろ過装置を開発した。逆流洗浄の動力に圧縮エアを用いることで、逆洗ポンプを省略し、装置の小型化、省エネを実現した。また、膜モジュールの保守点検が容易な構造とし、通常のろ過以外の膜モジュール損傷試験や薬液洗浄なども自動プログラムで実施することができる。さらに、遠隔で運転監視、操作ができるため、災害時の応急浄水装置としての対応も可能である。2016年9月、小型機種AMF-180S(平均浄水量180m3/日)を用いたC町向け災害支援の結果、その性能が評価され、同年10月、同町H浄水場に中型機種AMF-1000Sを納入した。現在、2施設で稼動中である。
- 文責者
- 櫻井 正伸
- 共同執筆者
- 伊藤 隆
当社は繊維束ろ材を用いて高速に海水を取水できる海中設置型高速繊維ろ過装置SuRFF®(Submerged Rapid Fiber Filtration)を開発した。実機と同じ繊維束ろ材をφ317mmカラム実験装置に設置してろ過および逆洗実験を実施し、最適なろ材配置や逆洗条件について検討を行った。ろ過実験では、ろ過速度1000m/日の条件にてろ材配置を最適化し、濁度除去率95%を達成した。逆洗実験およびサイクル実験では、水と空気による逆洗を8分以上実施すれば繊維束ろ材を完全に洗浄でき、ろ過性能が維持できることを確認した。これらの実験結果より、SuRFF®の設計指標を確立した。
- 文責者
- 乾 真規
- 共同執筆者
- 新里 英幸、来住 宜剛、藤田 哲朗、井手 幹夫、大地 佐智子
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